H1-Bビザ(アメリカ就労ビザ)申請について解説します

アメリカ


私はアメリカでデザイン大学院を修了後、F1ビザ(学生ビザ)保持者に与えられる1年間のOptional Practical Training(以下、OPT)でアメリカ企業に勤めました。OPT期間終了後の現在もアメリカに残って同じ企業に勤めていますが、ビザのステータスはF1ビザからH1-Bビザ(特殊技能職ビザ)に切り替わりました。

  • 2016年8月: F1ビザにてアメリカ入国、大学院進学
  • 2018年3月: OPT申請
  • 2018年5月: 大学院修了
  • 2018年6月15日: OPT開始 (自分で開始日を決められます)
  • 2018年8月初旬: アメリカ現地企業にて勤務開始
  • 2019年6月14日: OPT終了
  • 2019年6月15日-9月30日: Cap Gap Extensionにより継続勤務
  • 2019年10月1日以降: H1-Bビザにて継続勤務 ← 今ここ

私がこうしてアメリカに残って働けているのは、①雇用主がH1-Bビザ申請のスポンサーになってくれ、②運よく全体抽選を通り、かつ③現政権下で年々厳しくなっている移民局の書類審査も無事通ったからです。

私は日本で勤めていた企業を退職後、私費でデザイン大学院に進学し、その後アメリカに残って働く決断をしました。以下、私自身の原体験を踏まえ、アメリカの大学や大学院に在学中で同じような境遇にある方、これから留学を経てアメリカ現地でのキャリア開発も検討しているといった方にとって、少しでも参考になる情報をシェアできればと思います。

(一方、官費・社費留学でアメリカに来られて直ぐに帰国される方、大学卒業、大学院修了後に帰国せねばならない制約のある奨学金を受給して留学されている方にとっては余り有用な記事ではないと思います。その点ご留意頂ければと思います。)

H1-Bビザとは?

H1-Bビザは特殊技能職ビザとも呼ばれ、高度な専門知識、技能を必要とする職業に就く人材に付与されるアメリカ就労ビザの一種で、基本的には学士以上の学位保持者が対象となっています。

以下、2019年11月22日時点でのH1-Bビザの概要を簡単に纏めました。

  • 対象者: アメリカで一時的な就労を基に滞在しようとする専門技術者
  • 応募条件: 普通4年制大学を卒業しているか、短大卒業+最低6年間のプロフェッショナルとしての職業経験を有すること
  • 年間発給枠: 85,000 (4年生大卒者65,000、大学院修了者20,000)
  • 有効期間: 3年間 (延長可能、最長6年)
  • 取得までに要する時間: 約4-5ヶ月間
  • 申請費用: 4,000-5,000ドル (弁護士費用含む)

H1-Bビザの審査方法は?

発給上限の85,000を超える応募があった場合には、まず最初のステップとして無作為の抽選が行われます。それ故、Lotteryビザだと揶揄されています。

最初に全応募者が一般枠の抽選にかけられ、その後にアメリカの大学院以上の学位保持者で落選した申請者を対象とした大学院枠での抽選が行われます。要するに、大学院を出ていると最初の抽選で落ちても復活チャンスがあるということです。

そして抽選で選ばれた申請者のみが米国移民局(USCIS)の書類審査を受けることとなります。尚、USCISの審査では申請者の能力や技能が当該職務、ポジションに必要なものなのか等を詳しくみられます。現政権下でAmerican Workers Firstが進められていることから、この審査も年々厳しくなってきているようです。

特にこの数年ではRFE(Request for Evidence)と呼ばれる追加書類審査件数が大幅な増加傾向にあり、私も例に漏れずRFEを受領しました。

H1-Bビザの過年度の応募総数と倍率の推移

H1-Bビザの過去7年間の応募総数、倍率の推移を以下に纏めてみました。年度はUSCISのFYで、私が申請したのは最新のFY2020となります。

年度により多少のバラつきはあるものの、総じて2.5倍前後の倍率で推移していることが分かります。

出所: USCIS、Womble Bond Dickinson等のデータを基に当ブログ管理人である井上が作成(2019年11月22日時点)

上記で見てきたように、H1-Bを無事取得できるかは運次第なところも多分にあり、アメリカ企業も外国籍の人材採用とそのスポンサーには積極的にはなれないのが実情です。
将来働けるかどうかも分からない異国人を雇用しビザ申請に必要な弁護士費用等の面倒を見ることは雇用主にとっても賭けみたいな要素が多分にあるのです。それ故、アメリカ人を雇う方が安全安心確実なわけです。

ですので、H1-Bビザを取得しアメリカで働くことを目指すには、多様性の受容を推進しているリベラルよりな風土の企業や有名な大企業への就職が現実的にはなってくるかと思います。中小企業だったり、ベンチャーだったりは一人当たり50万円のビザ申請費用を払う余力が無いところが多いと思いますので。事実、私も就職活動中に話していたベンチャーからは将来的にビザ費用等の面倒は見れないとはっきり言われました。

(補足) H1-Bビザ Cap Gap Extensionとは?

尚、現行の米USCISの規定では、F1ビザからH1-Bビザへのステータス変更を申請している人に対し、申請時点でOPTが有効であればF1ビザを維持したまま9月30日までの就労が認められます。

この期間のことをCap Gap Extension(キャップギャップ)と呼びます。
文字の通り、F1ビザ終了とH1Bステータス開始までの間(ギャップ)を埋めるルールで、スター状態のマリオをイメージして頂けると分かりやすいかと思います。

H1-Bビザ申請スケジュール具体例

以下、私自身が実際に経験したH1-B申請のタイムラインになります。
とりわけ申請後は、毎日抽選に通ったかどうかが気になるようになるかと思います。また、抽選を運よく通った後も、年々厳しくなる移民局の書類審査の進捗、結果が気になることと思います。

ケースバイケースで審査期間にバラつきはありますが、一個人のケースとして参考にして頂ければ幸いです。

2019年2月6日
会社からH1-Bビザ申請のスポンサーになる旨、それに際し弁護士に申請サポートの依頼をした連絡をメールで受領

2019年2月12日
弁護士からメールを受領。ポータルサイトでの質問に応えるよう、また併せて申請に必要な書類をアップロードするよう言われる

2019年2月20日
ポータルサイトでの質問(出自、これまでの職務経験等一般的なもの)に回答

2019年3月2日
弁護士からメールを受領。追加でSasakiの名前が記載されたI-20とハーバードGSDのディプロマを提出するよう言われる

2019年3月4日
学校に行き、International Office(日本で言う留学生向けの学事)で最新のI-20を申請

2019年3月6日
最新のI-20を学校でピックアップし、弁護士に提出。
弁護士から用意した申請書類一式が人事と自分にメールで送られてきて、確認を依頼される

2019年3月8日
勤め先の人事が申請書類に漏れがないこと等を確認、書類にサインして弁護士に郵送。
郵送後、メールでもサインオフ

2019年3月29日
弁護士がH1-Bケースをファイリング、申請

2019年4月18日
弁護士から無事lottery(抽選)を通った旨の連絡を受領。併せてこれは単なるlotteryに選ばれた連絡であり、移民局によるH1-Bの個別ケースの審査はこれからであることを念押しされる

2019年5月31日
案の定、RFEと呼ばれる追加書類提出を移民局から求める旨の連絡を受領。
トランプ政権下、過年度5年位でかなり厳しくなってきているのが実情

2019年6月14日
F1ビザ保持者としての、留学後のOPT期間(1年間)が失効。
OPT終了までにH1-Bビザ申請をしたのでCap Gap Extensionが有効となり、F1ビザステータスのままで9月30日まで継続勤務できる状態に

2019年7-8月
弁護士からRFEに必要な書類や文言の提出を求められる。弁護士とメール、電話で何度かやり取りしながら提出に向けた書類作り
私の場合は、アーバンプランナーという専門職人材として日常どういった業務を行っているのかを10ブレットポイント程度で纏め、併せて自分がこれまでに関わったプロジェクトのプレゼンテーション、レポート等を提出しました。

2019年8月22日
弁護士が移民局にRFEで要請された追加書類、証明等を纏めてファイリング

2019年8月27日
弁護士から無事H1-Bビザの申請が通った連絡を受ける

2019年9月18日
弁護士からH1-Bビザの承認書類の原本が家に郵送されてくる

2019年10月1日
H1Bステータスに自動的に切り替わり。ようやくアメリカから出国できるステータスに
(但し、再入国のためには日本のアメリカ大使館で面接を受け、パスポートにH1-Bビザのスタンプを貰う必要があります。)

最後に

外国人、マイノリティとして異国の地に暮らし、かつ働くのは容易なことではありません。ビザの抽選しかり、そこには不確実な要素が多分に存在します。

私自身もアメリカでの就職、ビザの切り替え等は本当に苦労しましたし、多くのストレスを抱えました。(白髪も増えました汗)また、身近な友人にもH1-Bビザの抽選に漏れてアメリカに残る他の方法を検討せねばならなくなったり、諦めて自国に帰っていった友人が多数います。

日本で生まれ育った私のような人間が、異国で学び、かつ現地企業で働く経験が出来ているというのはとても幸せなことだと日々感じています。これまで支えて下さった方々のおかげで今の自分があること、また事実抽選で落選しなく帰国された方々がいることもきちんと心に留め、1日1日を大切に暮らして行きたいと思います。

以下は、これまでに私が書いたアメリカ現地就職関連の記事リンクです。少しでも参考になればと思い、再掲しておきます。

  

尚、ビザについてもっと詳しく知りたい、手堅く手立てを打っておきたいという方には以下の書籍がおススメです。是非ご一読を。

長くなってしまいましたね。今回の記事は以上になります。
最後までお読み頂き、有難うございました。