ハーバードGSD修了後の進路 – アメリカ現地企業に勤めて分かった3つのこと

アメリカ


2018年5月にハーバード大学デザイン大学院(GSD)を修了し、現在はササキ・アソシエイツ(Sasaki)という米国大手の組織設計事務所に勤めています。

Sasakiはその名の通り、日系アメリカ人であるササキ・ヒデオが設立した設計事務所で、米国のみならず世界各国でのプロジェクトに取り組み、特にランドスケープデザイン、キャンパスプランニング、都市デザインの分野で世界的な評価を得ています。
2019年4月時点では約300名が在籍しており、その中で日本人は私一人となっています。

米国現地就職の難しさやTips等については別途纏めるとして、今回は私がなぜ米国に残る決断をしたのか、またアメリカ現地就職を通じて感じたことについてお伝え出来ればと思います。

そもそもなぜ米国現地での就職を選んだのか


(夕陽に染まるチャールズ川とハーバード)

チャレンジし続ける

米国現地での就職を選んだ最大の理由は「チャレンジし続けたい」という思いが強かったからです。周囲が自らのバックグラウンドを知らない「孤独」な環境下で、ゼロから信頼を勝ち抜いていく経験は人を大きく成長させてくれます。

スポーツに例えて考えてみると分かりやすいと思います。例えば、あなたがどこぞやのラグビーチームに所属していたとして、毎回ホームグラウンドで試合をしていたとしましょう。慣れた芝生の感覚、いつものチームメンバー、毎回変わらないベンチや応援団の位置、グラウンド外の周囲の景色や音。もちろん、土地勘があり、環境に慣れ親しんでいることは安心感や自信の創出に繋がります。一方で、その住み慣れた環境が”comfort zone”となってしまうと、そこから抜け出すのは容易なことではありません。GSD在籍時にも、よく教授から”Get out of your comfot zone!“と言われたものです。

土地勘もネットワークも無く、文化面や言語面でもハンディキャップを負っている環境は、日本に比べて自身がよりストレッチされる環境であると思い、米国での現地就職を選びました。

アメリカ現地企業に勤めて分かった3つのこと

  • フレキシブルな働き方
  • 多様性を活かしきる
  • 良くも悪くも放任主義、そして個人主義

以下、個別に見ていきたいと思います。

フレキシブルな働き方

Sasakiで働き始めて9カ月程が経ちましたが、労働環境は日本に比べて格段に良く、働き方もフレキシブルと言えます。「プライベートの時間が充実しているからこそ、日々の仕事にも集中できる」という考え方が浸透しているので、皆ランチは必ず1時間取りますし、纏まったバケーションもちゃんと取ります。休むことでまた会社の成果に繋がるからこそ、そこに変な遠慮は要らないのです。

また、基本的に一日8時間勤務してきちんと仕事をしていれば、出社・退社時刻は自分で調整可能で、ミーティング等が無ければ家から働くのも認められています。「今日も朝8時半に出社しないと・・・」といった日々の小さなストレスから解放されるのはとても大きいです。どうしても子どもの送り迎えに時間が必要な場合、体調が優れないとき、いろいろあると思います。そういった際に小さなストレスがあるかないかでは働くモチベーションは大きく変わってくると感じています。

ちなみに私は私服、髭はボーボーで勤務しています。これは勤め先がデザイン系のオフィスだということも大きく影響しているとは思いますが、身なりも個性のうちという見方がこちらでは強いですし、その「個性」にとやかく言う人はいません。

「髭を剃っていないと・・・」「スーツを着て行かないと・・・」
日本で感じた「平均から乖離することへの恐れ」はもうなくなりました。

多様性を活かしきる

多様性を人種という尺度のみで測るつもりは毛頭ないのですが、今取り組んでいるプロジェクトは10人メンバーがいて、そのうちアメリカ人はたったの2人です。その他は、南アフリカ、ブラジル、インド、コスタリカ、スイス、中国、そして日本(私)出身という多国籍軍です。専門性、バックグラウンドや価値観の異なる多様な人々が共に働くことで、それまでに無かったバリューというものが生まれます。そして何より、そんな人たちと働く日常はわくわくして楽しいです。

その他にもオフィスでは常に従業員の交流が促進されるようなイベントが日常に散りばめられています。以下の写真はオフィス皆でガーデニングをした際の写真。ボストンもようやく春らしくなってきたので、皆で種や苗を植えました。多様な人たちが共に同じ経験を”share”する仕組みづくりこそ、従業員の絆を強くし組織の力を強していくことに他ならないと思います。

(私はほうれん草とチンゲン菜の苗を植えました)

(唯一の日本人として毎月お抹茶を振る舞うイベントもしています)

(一杯のお茶がきっかけとなり、会話が生まれていきます)

多様性を唱えるだけでなく、その多様性をどうinclusionしていくか。日本では今後人口が大幅に減少していく中で、移民も増えてくるでしょう。均質性の高い日本は多様性のinclusionには相当苦労すると思います。

アメリカは人種のるつぼで多様性が溢れている素晴らしい国だと言う人が多いように感じますが、私はその考え方は短絡的だと思っています。アーバンプランナーという職業上コミュニティプランニングといって地域の住人たちの意見の吸い上げをやったりします。今でも白人と黒人の対立は激しいですし、アメリカ南部にいけば白人だけという社会が存在します。“多様な感じがする”のは「都市部」のみです。そんなアメリカを実験的国家かつ反面教師と見立てて、学べるところは学びこれからの日本に活かしていく。そんな前向きな姿勢が今の日本には求められているのだと思います。

良くも悪くも放任主義、そして個人主義

アメリカの働き方は良くも悪くも放任主義です。そして、その根底にあるのは「集団は個の集合である」という絶対的な前提条件です。日々のプロジェクトや仕事に自分はどんなバリュー(専門的な知識やスキル等)を提供できるのか。この問いに常に向き合い、自ら能動的に周囲の人や仕事と関わり合おうとしていかなければ仕事は無いし、必要ともされません。上から仕事が降ってくるのを待っていると自然とクビになるのがアメリカなのだと原体験を通じて学びました。

言い換えると、アメリカでは起業家ではなく勤め人にもアントレプレナーシップが求められるということなのだと思います。「これを基に○○をいつまでに作っておいて」なんていう丁寧な指示はありません。過去に経験があるなしも関係ありません。インターナルのミーティング中に「これ担当できる?」と聞かれたら、何をどう作るかを自分で思案し、社内外のリソースを使い、自らクリエイトしていく力が求められます。勤め人もアントレ的、それがアメリカなのだと思います。

おわりに

分かった3つのこと

フレキシブルな働き方

多様性を活かしきる

良くも悪くも放任主義、そして個人主義

以上、米国現地での就職を選んだ理由、そして勤め先のSasakiの紹介とそこで感じたことや学んだことをつらつらと書いてみました。これからデザインスクール留学や米国での現地就職を目指す人にとって少しでも参考になれば嬉しく思います。

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