ハーバード大学デザイン大学院 (GSD) 都市計画学科を目指す方へ

ハーバード大学


ハーバード大学デザイン大学院に在籍する日本人は、全プログラム、全学年を合わせて数名、そしてその大半が建築、ランドスケープや都市デザイン学科に在籍中です。事実、私が在籍していた2016-2018年には、都市計画学科 (Master in Urban Planning) に在籍した日本人は私のみでした。尚、過年度5年強を遡っても都市計画学科に日本人の修了生はいないことから、ネット上でもその情報は皆無です。そのため、私もGSDへの進学を決意し準備をしていた頃には情報収集に苦労しました。

今現在準備をしている、あるいはこれからGSDの都市計画学科を目指したいという方のために、いくつか参考になる情報を記載しておければと思います。私は昨年GSDを修了したので比較的情報は新しいですが、私が在籍していた当時の情報ということを念頭に置いて読んで頂ければと思います。

TOEFL Speakingでは必ず26点を取ること

スピーキングで26点を超えていなければ、都市計画学科への入学は無いと考えてください。GSDには2段階でのTOEFLの足切りがあります。1つ目はMinimum Required Score、即ち必要最低スコアとされる92点(各コンポーネントで23点がマスト)。2つ目はPreferred Scoreで、104点(各コンポーネントで26点)が理想とされています。都市計画学科を目指すのであれば、スピーキングは26点、総合でも110点近くをとっておくことをお勧めします。理由は大きく2つあります。

カリキュラムの特性

都市計画学科は2年間のプロフェッショナルディグリーで、アメリカ、そして世界に通用するアーバンプランナーを輩出するためのプログラムです。とは言え、アメリカの大学なので基本的には米国の諸都市で活躍できるアーバンプランナーの育成を念頭にカリキュラムが組まれており、クラスメート約40名のうち留学生は10%前後というのが毎年の傾向です。対する他のGSDのプログラムを見てみると、留学生比率は過半を超えているものばかりです。

尚、都市計画学科では、1年目は、秋・春の2学期間かけてUrban Planning Core Studio 1&2をそれぞれ履修することになっていますが、このCore Studioでは実際にボストンの地区を対象とし、存在する諸問題について様々な解決策を練っていきます。その過程では、コミュニティと対話していくネイティブレベルの英語力、コミュニケーションスキルが問われます。

日本に置き換えてみると分かりやすいかと思います。例えばあなたの住んでいる街に、堂々とプランナーを名乗る人が来たとします。しかし、その人は日本語(=共通の言語)が話せず、きちんとしたコミュニケーションが出来ません。そんな人がこれからの街の絵姿を描くファシリテーションを出来るでしょうか?答えは否です。

「英語なんて話せなくても大丈夫。言語はたかが言語だし、料理、スポーツ、文化という共通言語があるから・・・」という議論はあるとは思いますが、人の生活を、街の未来を紡いでいく都市計画の実務の現場に置いて高度な言語能力はマストです。加えて、現地の文化に対する深い理解、即ち米国での生活経験があるとベターです。私も2学期間、コミュニティに入り、住人たちと対話を繰り返しましたが、アメリカ文化を根本から理解できない私はやはり「よそ者」だなと感じることが多々ありました。そんな時に救いになったのは、他国や異業種での経験から提供できるバリューがあること、そして何よりある程度の英語力・コミュニケーションスキルがあったことでした。

授業に貢献しない日本人は要らない

都市計画学科長と話をしている中で彼女が言っていたのは、「授業に貢献しない人間は要らない」ということでした。都市計画学科のRecruiting Committeeにも関わったことがありますが、留学生のTOEFL足切りに関しては合計104点というのが暗黙の了解となっています。(念の為ですが、都市計画学科以外のプログラムでは104点はマストではなく、Minimum Required Scoreの92点があれば条件付きの合格は出るようです。言わずもがな、その分代わりに高度なデザインスキルが求められます。)

アメリカの大学には教育の質のベースは大学側が提供し、その上で選抜した優秀な学生たちと一緒により高次の次元に昇華させようという考え方があります。ですので、授業で発言しない、プロアクティブな関わり方をしない人材は大学側からすると不要ということになります。この「積極的な人材」の必要要素というのは、何も英語力に限ったことではありません。とは言え、大学側にとっても分かりやすい物差しとしては、やはり英語がネイティブレベルで話せることは重要なようです。

ポートフォリオより面白いValueを提供すること

都市計画学科はポートフォリオの提出がOptionalとなっています。事実、私は出しませんでした。GSDを目指すペルソナの99%は、大学で建築、都市計画、都市デザイン、ランドスケープ等を学んできた、あるいはその分野で職務経験を積んできた人たち、かつその分野における世界のトップタレントです。対する私は学部では経済学、公共政策、哲学等を学び、投資銀行でキャリアをスタートさせた人間です。しかし、この「異端であること」が自身のバリュー、エッジになると確信して、素人としてポートフォリオの制作に時間を費やすよりは、説得力のある志望理由・ストーリーの構築に時間を費やそうという決断をしました。こういうとき、自分ってSFC出身だなとつくづく思います。

入学して蓋を開けてみると、クラスメート約40人の中でファイナンスセクター出身者は私一人でしたが、お金の流れ、座組やプロジェクトマネジメントの重要性を多少なりとも理解していたことは、GSDでの学びの上で強みになりました。振り返ってみても、ファーストキャリアを投資銀行でスタートできたこと、尊敬できる上司・先輩に恵まれたこと、そしてお客様やディールに恵まれたこと、改めて感謝の念に堪えません。

私と同じようにデザインのバックグラウンドが無い方も、何も恐れる必要は無いと思います。事実、GSDに入学すると、慣れないソフトウェアを必死になって使い、「デザインと格闘する時間」が来ます。都市計画学科のオリエンテーションの初日、教員からの「If you don’t have a pen, you don’t have a voice.」という一言で私のGSD生活はスタートし、武者震いしたのを思い出します。実際、日々の学び、積み重ねの中で少しずつスキルも身に付いていきますし、放課後には有志の学生が主体となってデザインのバックグラウンドが無い人向けにソフトウェアやデザインの補講を行っています。やりたい人にとっては、とことん勉強できる環境があります。そういったことを勘案すると、出願時に中身のない下手なポートフォリオを出してマイナスの評価を得るくらいなら、出さない決断もあっていいのではと個人的には思います。

以上、GSD MUPを目指す方にとって少しでも参考になれば幸いです。

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