ハーバードデザインスクールから見たアメリカ大統領選挙

ハーバード大学


アメリカ大統領選の投票が昨日8日行われ、9日未明に共和党候補のトランプ氏が第45代大統領に就任することになりました。同時に実施された米議会上下両院選においても、事前予想に反し共和党が過半数を確保する展開。

選挙戦の期間はアメリカ人と共に毎回の討論会を友人の家で、そして昨日・今日と選挙開票結果を友人の家や学校の大きなレクチャールームで見た一学生として思ったことを備忘のため記しておきたいと思います。

ポイントは大きく2点。

1. ハーバードデザインスクールの学生のクリントンへの圧倒的な支持(あるいはトランプへの圧倒的な反感)

ハーバード大学は比較的リベラルだと言われているマサチューセッツ州のケンブリッジ市にあります。中でも、ハーバードやMITなどのアカデミアは特にリベラルです。マイノリティーを含む全ての個を尊重し、大切にするカルチャーがあります。私の所属しているMaster in Urban Planning(都市計画学科)はデザインスクールの全学科中でおそらく一番アメリカ人の割合が多い学科です。クラスは40人強いますが、30人強がアメリカ人です。皆、都市やそこに住まう人々の生活、そして都市・人と自然との関係を良くしたいとの思いを持って世界から、そしてアメリカの色んな州・都市から集まってきた人たちです。

クラスメートの一人の家にみんな集まり、9月から10月にかけて3度行われた討論会を一緒に見たのですが、歓声が上がったのはクリントンが発言した時だけ。翻ってトランプが失言をしたり、適切でない英語を用いた時は、みんな笑いながら「ないない、あり得ないから。」というような感じ。昨日の開票速報でもクリントンが優勢だった頃は皆お酒を飲みながらわいわいしていましたが、クリントンの劣勢が次第に明らかになるに連れて、「もう見ていられない」と首を垂れて友人宅を後にするクラスメートが一人、また一人と増えていきました。そして、いよいよトランプが勝ちそうだとの速報が伝えられた(22時頃)時には、皆一言も発することができず、ただただテレビの画面を呆然と眺めていました。数人は放心状態になっており、その場を動けずにいました。

(選挙速報に見入るクラスメートたち)

2. トランプの勝利が意味するもの:圧倒的な喪失感、”アメリカ”の敗北の忍従と変革への胎動

選挙の開票、トランプの当選確実報道から一夜開けた今日。朝学校に行ってみると、泣いている人がちらほら。今日はいつもに比べ来るのが遅かったなと思った友人も、泣きながら登校してきました。その他にも昨日泣きはらしたであろう、目の下を真っ赤にした人もちらほら。クリントンのConcession Speech、オバマの演説は学校側が提供した教室で皆と一緒に聞きましたが、やはりみんな呆然とした表情。この裏にあるもの、それは圧倒的なアメリカの、アメリカ人としてのアイデンティティの喪失感だと思います。

(オバマの演説に耳を傾ける教授、学生)

建国以来、さほど長くない歴史の中で、一つ一つまるで積み木を重ねるように築いてきた自由や平等といったアメリカの誇るべき価値観。それらがトランプの勝利、クリントンの敗北によって大きく崩れ去ったかのような喪失感。連綿と積み重ねてきた先人の歩みや歴史といったものが白紙になったような空虚さ。先進国であるにも関わらず、後進的な倫理的価値観(トランプ政権下で起こり得るかもしれないマイノリティの排他・抑圧)に戻ってしまったという全世界に対する恥じらい。そして、今後この国がどうなっていくのかという見えない展望に対する恐れや不安。これらが学校の友人と話す中で私が得た、彼らが抱いているであろう感情・感覚です。

でも民意の二極化が国の実態だと受け入れ、選挙結果を結果として受け入れ、早速アクションを起こす動きもちらほら。学校の手すりには学生が作ったであろう次のメッセージが掲げられました。

“We will get through this together.”
“Fascism stays outside.”

(学生が作ったメッセージ)

他にも、生徒全体のメーリングリストには複数の生徒が自発的に自分の思いを寄せるなど、色々なアクションを起こしています。中でも一つ、本当に胸を打たれたメッセージがあったので以下、ご紹介します。

“Remember that we are still us. We are individuals and no election can compromise our personal values and ambitions. Our mission here—to change the world through design—has not changed.”
(俺たちは俺たちだってことを心の大切なところで持っていて欲しい。選挙の結果は俺たちの信じる思いや価値観を取り払うことはできない。俺たちはデザインを通して世界をもっといい場所にしようとここに集まってんだよな。どっちが勝ったにせよ、俺たちの使命は変わらない。受け入れて、一緒に世界をもっといい場所にして行こう!)

私は学校でDiversity Committeeに入って活動しているのですが、早速2時間ほど教授・生徒で話し合いました。選挙を経て明らかになった二分されたアメリカの世論。その橋渡しをするにはどうすべきか。この国のため、そして世界のために何ができるのか。悲観的になるのではなく、建設的にどのようなアクションを取るべきか。アーバン・プランナー(都市計画家)の職分は都市、人々、自然といった様々なアクター、ステークホルダーの橋渡し役(bridge)になることだよねという原点に立ち返り、早速動き始めています。

取り急ぎ。

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