ウォールデン – 私は、今を生きたいのです

アメリカ生活


(ソローが暮らした小屋の跡)

ソローの有名な『ウォールデン 森の生活』の一節。

“私が森に行って暮らそうと心に決めたのは、暮らしを作るもとの事実と真正面から向き合いたいと心から望んだからでした。生きるのに大切な事実だけに目を向け、死ぬ時に、実は本当は生きていなかったと知ることのないように、暮らしが私にもたらすものからしっかり学び取りたかったのです。私は、暮らしとはいえない暮らしを生きたいとは思いません。私は、今を生きたいのです・・・”

引用元:ヘンリー・D・ソロー(著)、今泉吉晴 (訳)
『ウォールデン 森の生活』(小学館、2004年)

週末、ボストンから少し足を伸ばしてソローやエマーソンが暮らしたコンコードへ。
1845年、ソローはウォールデンの森に自ら小屋を建て、ここで2年強の時を過ごした。『自然論』で知られるエマーソンらから斧を借り、木々を伐採し、自らの手で時間をかけて小屋を建てた。まさに現代のDIYの祖と言っても過言ではない。

経済性や利便性を追求しがちな俗世から離れ、自然の中に身を置く。自らを実験台とした至極シンプルな暮らしの中で、彼は人間の生き方、社会との関わり方、自然との関わり方の真髄を覗き込もうとした。今から約160年も前、丁度カリフォルニアがゴールドラッシュに沸く頃、ウォールデンのこの小さな湖畔で彼は人の本来のあるべき姿を見据えていた。

そして深い思想の旅を通し、彼は一つの答えに辿り着く。

人間はできるだけ簡素に暮らすべきである、と。
そしてこれを「Lifestyle of Health and Sustainability」と唱えた。今巷で言われるLoHaSの語源である。

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10kmほど歩いたので休憩も兼ねて、ソローの小屋があった場所で少し目を閉じてみる。湖が冷やしてくれたのだろう、ひんやりとしたそよ風が、汗の滲む額をそっとなぜていく。(この日は結局25kmほど歩いた)

カサカサ。ゴソッ。コツコツ。普段気にも留めない色んな音たちが、まるで「お帰り。たまにはこういうのもいいでしょ?」とでも言うようにこちらに迫ってくる。改めて自分はこの自然の一部なんだと認識させられる。

(蝶)

(てんとう虫)

(リス)

そう言えば子どもの頃は、生き物が不思議で、可愛くて、たまらなくて愛しくて。朝青かったはずの空が夕暮れ時オレンジ色になるのが不思議で不思議で。春、青々としていた木々の葉が黄色や赤色に染まると何て綺麗なんだろうと感動して。

忙しない世の流れの中で、人はいつしか急ぎ足になる。
大学院に来る以前、所謂社会人をやっていた頃は大きな流れの中で仕事をこなすことで一杯一杯だったと今は思う。余裕も無く、感謝を忘れ、大切なはずの周囲の人々に当たってしまったこともある。

“Stop and smell the roses.”
忙しい日々だからこそ、一歩立ち止まる。昔、小さな頃にアリ、蝶やバッタを追いかけた目線で世界を見てみる。

もしかしたらいつも歩く道に、綺麗な花が咲いているかもしれない。
今日の空は昨日のそれよりも少し青いかもしれない。
見たことのない虫がいるかもしれない。

平凡だと思う人生も、少し立ち止まって見方を変えてみると、そこには新しい発見があり、少しの変化も凄く愛おしく感じられるかもしれない。

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ウォールデンの森を後にしようとした時、足元に蝉の亡骸が横たわっていることに気付く。
「よお頑張ったなあ。お前さん、大往生やで。」
そう声をかけて木の根元に移して供養してやった。

目を閉じ手を合わせふと思う。たった数時間この大自然の中に身を置いただけで、少し自分らしくなれたなと。
疲れたらまた自然の中に身を置き、これからも自分らしく、人間らしく生きていきたい。

*文中でご紹介した書籍の文庫版(2016年)は以下をご参照ください。
自然好きの方は必読です。


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