コロナウイルスとアーバニズム – 疫病と都市

アーバニズム


こんにちは、Takaです。

先月、4月23日に行われたBoston Society of Architects (ボストン建築家協会、通称BSA)が主催するパネルにスピーカーの一人として登壇しました。スピーカーにはボストンで働く建築家、ランドスケープ・アーキテクト、アーバンプランナーやアーバンデザイナーといったBuilt Environment (都市空間などの建造環境)のデザインに携わる人々が集められました。

“Design Meets Diseases across Geographies”と題されたこのイベントの主眼は、コロナ禍におけるデザインやプランニングの役割、あるいは都市との人との関わり方について考えるきっかけを提供することにありました。私は日本出身の米国在住アーバンプランナーとして参加し、自身のビューを述べさせて頂きました。

この記事では、「疫病と都市」に対する個人的な考えを備忘がてら記しておきたいと思います。

外科手術だけでは克服できない都市問題

都市の物理的環境を変えるだけでは、都市が内包する社会問題等を解決することはできません。

今回のコロナウイルスの感染拡大を受け、都市計画の分野では人口密度を下げたり、公園を増やすといった類の議論は多数なされています。しかし、単なる外科手術的アプローチでは疫病と対峙することは不可能です。

都市における公園の重要性は言うまでもありませんが、だからと言って公園が即効薬のようにコロナ問題を解決してくれることもありません。また、人口密度が高いことには経済、あるいは機能集約の観点から合理性、メリットがきちんとあり、実際に被害の大きいニューヨークは病院等施設への近接性からメリットを享受しています。要するに、表面的、外科手術的アプローチだけでは種々の都市問題を解決することは出来ません。


(セントラル・パークとマンハッタン)

少し歴史を振り返ってみましょう。初めて「ランドスケープ・アーキテクト」を正式に名乗り、ニューヨークのセントラル・パークを設計したことで知られるフレデリック・ロー・オルムステッド。彼がセントラル・パークを作ったのはニューヨークがまさにコレラの流行に苦しむ19世紀中頃のことでした。

今ではニューヨーカーのみならず世界中からの観光客にも愛される都市公園ですが、オルムステッドは人々のアメニティ、憩いの場としてはもちろんのこと、工業の急速な発展による人口の急増や深刻な公衆衛生問題を解決するための社会改革ツール、人々の意識改革ツールとしての願いも込めてこの公園を計画したのです。

今次のコロナの感染拡大は、人類に「環境と文明」という問いを突き付けました。オルムステッドが示したかったのは、都市の未来、文明の未来、地球の未来を考えた総合的かつ建設的なアプローチが必要だということではないでしょうか。そのためには都市に住まう一人ひとりが大局観を持ち、ある種哲学的な視座で「環境と文明」あるいは人類の歩みを捉える必要性があると考えています。

環境と文明の調和へ

上記で述べた通り、我々は「環境と文明」の問いを考える必要性に迫られています。

このセクションでは我々がどこに向かうべきかをシステマティックに考えると共に、思考の一助となる書籍を数冊ご紹介します。
おススメばかりなのでおうち時間に読まれてみてはいかがでしょうか?

近代世界システムを規定しているOSの一つに「資本主義」があります。しかしウォーラーステインが『入門・世界システム分析』のなかで明らかにしたように、資本主義は「工場の逃避」に代表される資源の有限性という物質的限界に直面しています。

「成長がすべての問題を解決する」という時代は過去のものとなりつつあり、人々も競争疲れを経験し始めています。資本主義下における拡大・成長の追求は環境問題という弊害を引き起こし、我々に生存活動と地球の関係性を再考する機会を与えました。

The New York Timesの論説によると、拡大をエートスとする資本主義下での人間の活動が、これまで触れられることのなかった自然界のホットスポットを侵食したことで疫病、パンデミックが引き起こされたと説明されています。英語ですが簡潔にまとめられているので一読の価値ありかと思います。

今回のコロナの感染拡大は、一人ひとりが「環境と文明」の問いに向かい合う、即ちライフスタイルや自然との関わり方を見直すきっかけを提供したと考えています。生きている間に知ることは叶いませんが、もしかすると我々は人類史の転換点にいるのかもしれませんね。

入門・世界システム分析

上記でご紹介したウォーラーステインの『入門・世界システム分析』です。世界をシステムととらえ、近代以降の世界システムの変化について概観する一冊。英語でいうと‘How the world works’という問いに答えをくれる一冊で、Big Picture (大局観)を持つには必読です。換言すると、「これからの世界を読むための基礎教養」といったところでしょうか。

環境と文明

サブタイトルにも知的創造とある通り、かなり頭の体操になる読み応えのある一冊です。大学時代にゼミで読んだ本で、今でも折に触れて読み直します。

著者の山折氏によると、環境と文明の調和は日本が歴史を通じて体現してきたことに他ならないとのこと。確かに日本文明は「持続」や「利他」をその本質構造に持つ稲作漁労文明であり、「拡大」をエートスの本質構造に持ち、それが故超越的な秩序によって他を侵す畑作牧畜文明とは一線を画します。この「持続」のエートスを保持していることは、文明が自然との調和を目指すための前提条件だと思います。

「持続可能な文明」という自らの強みを見直し、「利他」の精神を持って世界規模の問題解決に貢献する。日本にはそんな役割、動き方が求められているのかもしれません。

一方、日本賞賛、自民族中心主義の傾向はヘーゲルのオリエンタリズムに通じるところもあり、そこは気になった点です。西洋中心主義を批判しながらも日本中心主義に陥ってしまったという点を除けば、非常に素晴らしい読み物です。

また、「環境と文明」に対する考えを一気に深化させるには以下の2冊もよくまとまっていておススメです。まさにドンピシャな2冊です。

感染症の世界史

感染症と文明

またこれを機に都市の盛衰を学びたいという方には以下がおススメです。

Triumph of the City

経済学を専門とするハーバード大学のエドワード・グレイザー教授の著書で、世界史を復習する感覚ですらすら読めます。

日本語訳版もあるようですが、Amazonで見てみると中古で1〜4万円弱と高過ぎるプライシングです。。英語版は1,000円少しですし、これを機に英語で読書する習慣も身に付けてみてはいかがでしょうか。簡単な英語なので、英語に自信が無い人でも読み切れると思います。

マイノリティとソーシャル・エクイティ

コロナウイルスの感染拡大とそれに付随する経済活動の停滞。アメリカを例にとれば、その影響を最も受けているのは低所得者、低賃金労働者、なかでもヒスパニック・ラテン系や黒人・アフリカ系アメリカ人といったマイノリティです。

事実、ノンエッセンシャルとされる業界、職種では往々にしてマイノリティが太宗を占めます。ロックダウンと付随するレイオフで職を失った彼らは、コロナ禍でも生計を立てるために新たな働き口を見つけざるを得ません。その働き口とはUber Eatsに代表される買い物代行や配達業務で、自らを感染リスクの高い環境に晒さねばなりません。自由の国アメリカには人種・民族間格差が存在しており、社会的弱者が負のサイクルから抜け出すことは容易ではありません。

この辺りは先週のBLOGOSへの寄稿で詳しく言及させて頂きました。以下にリンクを載せますので、興味のある方、お時間のある方は併せてお読みください。

おわりに

以上、今回はコロナウイルスとアーバニズムと題して「環境と文明」の問いについて簡単に意見を整理してみました。いかがでしたでしょうか?

コロナ禍の混乱で心労が絶えない状況が続いているかと思いますが、皆さまくれぐれも心身のご健康にはお気を付けください。

最後までお読み頂き有難うございました。

人気記事 アメリカのデザイン大学院留学 – 受験対策③TOEFL

人気記事 ハーバード大学デザイン大学院 (GSD) のアーバニズム教育